新設→吸収分割した時の消費税あれこれ | 川口拓哉税理士事務所

新設→吸収分割した時の消費税あれこれ

問題の所在

吸収分割における消費税の取り扱いについて、分割承継法人への資産負債の移転が「資産の譲渡等」に該当するか否かに言及したサイトは多く見つかりましたが、分割承継法人の消費税納税義務や、分割承継法人に仮払消費税等・仮受消費税等を引き継がせることができるのかについて言及したサイトを見つけることができなかったので、自身で調べてみました。

ここでは、次の分割スキームを例にとって説明します。

2021年1月、P社の現物出資によりS社設立(S社の資本金の額は1円)
2021年10月、適格分社型分割によりP社のA事業がS社に分割される

この分割スキームの特徴は、新設と吸収分割の事業年度が異なる点です。政府の許認可などの関係で、分割の受け皿会社を先に設立して、その後に資産・負債を受け皿会社(分割承継法人)に移転させるケースも多いと聞いたため、このようなスキームを例に取りました。このスキームを題材に、次の3点について説明します。

① S社は2020年度の確定申告を行う必要があるか
② S社は2021年度の中間申告を行う必要があるか
③ A事業にかかる仮払消費税・仮受消費税をS社に移転することができるか

前提条件

  • 両社の事業年度はともに4月から3月
  • P社の課税売上高は毎期100億円
  • S社の課税売上高及び課税仕入高は吸収分割(2021年10月)まで0円

結論

① S社は2020年度の確定申告を行う必要があるか→ない
② S社は2021年度の中間申告を行う必要があるか→ない
③ A事業にかかる仮払消費税・仮受消費税をS社に移転することができるか→できない

①について

まず、S社は基準期間の課税売上高がないため、消費税法に別段の定めがない限りは免税事業者となります(消費税法9条1項。以下、消費税法を単に「法」と記載します)。「別段の定め」としては、新設法人の納税義務の免除の特例(法12条の2)と、特定新規設立法人の納税義務の免除の特例(法12条の3)があります。

新設法人の納税義務の免除の特例(法12条の2)

事業年度開始の日における資本金または出資金の額が1,000万円以上である法人(これを法では「新設法人」といいます)については、原則(法9条1項)にかからわず、2020年度の納税義務は免除されません。

これをS社に当てはめると、S社の資本金の額は1円ですから、新設法人には該当しません。従って、S社には法12条の2の規定は適用されません。

特定新規設立法人の納税義務の免除の特例(法12条の3)

次の要件をいずれも満たす法人(これを法では「特定新規設立法人」といいます)については、原則(法9条1項)にかからわず、2020年度の納税義務は免除されません。

  • 事業年度開始の日において特定要件に該当すること
  • 新規設立法人と特殊な関係のある者の基準期間に相当する期間の課税売上高が5億円を超えること

ここでいう「特定要件」とは、他の者により新規設立法人の発行済株式又は出資の総数又は総額の百分の五十を超える数又は金額の株式が直接又は間接に保有される場合などをいいます。

これをS社に当てはめると、S社はP社に発行済株式のすべてを保有され(つまり「特定要件」に該当し)、かつP社の基準期間に相当する期間の課税売上高が100億円であることから5億円を超えるため、S社は特定新規設立法人に該当します。従って、S社には法12条の3の規定が適用され、2020年度の納税義務は免除されません。

確定申告義務

納税義務が免除されないことと、確定申告義務があることはイコールではありません。次の要件をいずれも満たす場合は、確定申告義務がありません(法45条)。

  • 国内における課税資産の譲渡等及び特例課税仕入れがある
  • 課税標準額に対する消費税額から仕入れに係る消費税額等を控除した金額がない

これをS社に当てはめると、S社は2020年度において課税資産の譲渡等も課税仕入れもないため、これらの要件をいずれも満たします。

従って、S社に確定申告義務はありません。

②について

中間申告義務は、法42条で規定されています。法42条6項では、当該課税期間の直前の課税期間の消費税額を当該直前の課税期間の月数で除し、これに六を乗じて計算した金額が24万円以下であるとき(つまり年間の消費税額が48万円以下)は中間申告義務がないと規定しています。

これをS社に当てはまると、直前の課税期間(つまり2020年度)の消費税額は0円であり、かつ合併の場合のような合算規定(法42条2項)も会社分割にはないため、S社には2021年度の中間申告義務はありません。

③について

相続または合併があった場合は、相続人または合併法人が、被相続人または被合併法人の申告義務などを承継します(法59条)。このため、合併の場合は被合併法人の仮払消費税・仮受消費税を承継すると考えられますが、法59条は会社分割の場合は適用されません。従って、S社はP社のA事業にかかる仮払消費税・仮受消費税をP社から受けることはできません。P社は、会社分割前のA事業にかかる消費税を自社にて計算して申告します。