早いもので、インボイス制度が開始する2023年10月1日まであと1年とちょっとになりました。「そろそろインボイス制度の対応を始めた方がいいの・・・?」とお考えの方も徐々に増えてきていることと思います。
インボイス制度による影響は副業をやっている方にも及びます。たとえば、平日は一般企業で会社員として働く(本業)傍ら、休日に個人事業主としてライティング業務に取り組んでいる(副業)方は、副業の部分についてインボイス制度と無関係ではいられません。
そこで、副業に取り組んでいる会社員の方に向けて、インボイス制度対応でいつまでに何をすべきかを、自らも副業として税理士業務に取り組んでいる私(筆者)が、具体的な事例をもとにQ&A方式で解説します。
【質問者A氏のプロフィール】
飲食店を運営する会社に勤務する30代。3年前から飲食店ライターの副業を始めた。会社員としての年収は約500万円、副業の収入(20万円)から経費(5万円)を引いた金額は1年あたり約15万円程度。これまで確定申告をしたことはない。
インボイス制度が導入されると、消費税の申告?をしたり、何か届出?をする必要があると聞きました。そもそも、これまで消費税の申告とか届出をした記憶はまったくないのですが、これって脱税ですか?いつか国税庁から手紙が来ますか?先日、「国税庁から重要なお知らせ」ってショートメッセージが来て、ちょっと怖くなってます。
まず、「国税庁から重要なお知らせ」ってショートメッセージは詐欺です。読まずに捨てましょう。そもそも、国税庁は一般企業における「本社」のポジションで、税務官庁ピラミッドの頂点なので、国税庁から一般納税者に対して個別に連絡することはまずあり得ません。
用事が本物なのであれば、電話か手紙で税務署(一般企業における「営業所」のポジションに該当する組織)から連絡が来るか、etax経由で連絡が来ます(etaxにメッセージが格納されたときに届くメールは「国税庁からのお知らせ」です)。
次に、「脱税ですか?」というご心配について、Aさんの場合は消費税の申告、納付、届出はいずれも不要です。消費税に関しては何もしていなくてOKです。なので、消費税に関して税務署からAさん宛に手紙が来ることはないです。
そもそも、消費税ってどういう仕組みですか?スーパーで食料品を買うと税込みの金額を支払ったり、クライアントから税込みでライティング報酬をもらったりしてますが、「結局この消費税ってどうなるの?」と疑問に思ってます。
消費税は「最終消費者が負担し、各段階の事業者が各々の付加価値額に応じて納付する」という仕組みを採用しています。
たとえば、Aさんがスーパーで魚を買って自分で食べる場合を考えます。この魚が漁師→スーパー→Aさんのルートで流通された場合、最終消費者はAさん、各段階の事業者は漁師とスーパーです。
漁師がスーパーに税抜800円で魚を売り、スーパーがAさんに税抜1,000円で魚を売った場合、漁師の付加価値額は800円、スーパーの付加価値額は200円(=1,000円ー800円)ですから、漁師は800円の8%である64円(食品の税率は8%です)、スーパーは200円の8%である16円を納付します。
そして、64円と16円の合計額である80円は、Aさんがスーパーに支払う消費税の金額と一致します(税抜1,000円に対応する消費税額は80円です)。
この回答だと、「漁師は64円の消費税を納付する」という結論になりますが、漁師だって船代とかエサ代とか従業員の人件費とかを払ってると思うのですが、それは考慮されないということですか?
いえ、「質問2への回答」では説明を簡単にするために省略しましたが、漁師が支払った船代(船のチャーター費用)やエサ代は、漁師が納付する消費税の計算上考慮されます。
たとえば、漁師の1年間の税抜売上が2,000万円、船のチャーター代が税抜1,000万円、餌代が税抜400万円とした場合、この漁師の付加価値額は2,000万円-(1,000万円+400万円)の600万円と計算されますから、この600万円に応じた消費税を納付することになります(納付すべき税額は、「売上に係る消費税」から「課税仕入れに係る消費税」を引いて計算します)。
ちなみに、従業員へ支払う給料は消費税が課税されないため、漁師が納付する消費税の計算において考慮されません。
ライターの副業をやっている私は、クライアントから消費税込みの報酬をもらっています。先ほどのケースで、スーパーは私から受け取った消費税と、漁師に支払った消費税の差額を税務署に納税していました。私は税務署への納税をしたことがありませんが、これって脱税ですか?本来であれば、クライアントから受け取る報酬に係る消費税から、経費として使った金額(例:取材で訪問したレストランへ支払った飲食代)に係る消費税を引いた金額を、税務署に納める必要がありましたか?
いえ、Aさんは消費税の「免税事業者」に該当しますから、消費税を税務署に納める必要はありません(消費税の申告も不要です)。
「免税事業者」の判定は多くのルールが存在しますが、個人の副業ワーカーの場合、「2年前における副業の売上高が1,000万円以下であれば免税事業者に該当する」と考えてもらえばOKです。
たとえば、2022年(2022年1月1日~2022年12月31日)における判定は、2020年(2020年1月1日~2020年12月31日)における副業の売上高が1,000万円以下であるかどうかで判定します。
3点質問させてください。
①私は関係ありませんが、たとえば2020年において勤務先からもらった給料が1,000万円を超える場合、副業で得た収入が1,000万円以下であっても、2022年において消費税を申告しなければなりませんか?
②2020年において副業を行っていなかった場合、「2年前における副業の売上高」は存在しませんが、この場合はどうやって判定しますか?
③「副業の売上高が1,000万円以下であるかどうか」は、税込みで判定しますか?それとも税抜きで判定しますか?
①いえ、消費税の申告義務は「副業の売上高」で判定するため、勤務先からもらっている給料が1,000万円を超えていても、消費税の納税義務の判定には関係ありません。そのため、2020年において勤務先からもらった給料が1,000万円を超えたとしても、副業で得た収入が1,000万円以下であれば、2022年において消費税を申告する必要はありません。
②「2年前における副業の売上高」は0円として考えます。
③判定の期間が免税事業者の場合は税込み、課税事業者の場合は税抜きで判定します。
免税事業者である私は消費税の申告、納付、届出を行う必要はないことを理解しました。
ところで、飲食店ライターの副業をしている私であっても、副業専用の新しいPCを購入した年などは「支払った消費税額」が「受け取った消費税額」を上回る可能性もあります(たとえば、PCの購入費用が税込33万円、ライティング報酬が税込11万円の場合、支払った消費税額は3万円、受け取った消費税額は1万円だと理解しています)
こうした場合は、消費税の申告をすることで、消費税(上記の例だと2万円)を返してもらうことはできますか?
残念ながら、免税事業者は消費税の申告によって消費税を返してもらうこと(これを「消費税の還付を受ける」、といいます)はできません。
免税事業者が消費税の還付を受けたい場合は、原則として前もって消費税の課税事業者となるための届出書を提出しておく必要があります。
「前もって」とはいつまでですか?また、届出書はどこにありますか?
前年以前から副業を行っている場合は、課税事業者になりたい年の前年12月31日までに提出する必要があります。たとえば、2023年から課税事業者になりたいと考えた場合は、2022年12月31日までに届出書を提出します。
また、その年から副業を始めた場合は、副業を始めた年の12月31日までに届出書を提出すれば、その年から課税事業者になることができます。たとえば、2022年8月に副業を始めた場合は、2022年12月31日までに届出書を提出することによって2022年から課税事業者となります。
なお、課税事業者になるための届出書(消費税課税事業者選択届出書)は下記URLから入手することができます。
参考 [手続名]消費税課税事業者選択届出手続国税庁ホームページ- ほとんどの副業ワーカーは消費税の免税事業者です
- 消費税の免税事業者は、消費税の申告、納付、届出を行う必要はありません
- 消費税の免税事業者に該当するか否かは、2年前の副業の売上が1,000万円を超えているかどうかで判定します
- 消費税の免税事業者は「支払った消費税額」が「受け取った消費税額」よりも多かったとしても、消費税を返してもらう(消費税の還付を受ける)ことはできません
- 「インボイス制度」とは何か
- 副業ワーカーがインボイス制度について対応しないと誰が困るか
- 副業ワーカーはインボイス制度対応として何を考えればよいか
- 2022年中にすべきことはあるか
- 2023年中にすべきことはあるか