「節税」の本やインターネットには、「〇〇は経費に入る」「××を経費で落とすことも可能」といった言説が多く見られます。同じ費用なのに本やブログによって正反対のことが書かれていることもしばしばで、混乱した経験をお持ちの方もいるのではないでしょうか。
この記事では、個人事業主の経費について解説します(以下、所得税法を引用するときは単に「法」と記載します)。
個人事業主の所得税
小売業(例:洋菓子店)やサービス業(例:美容院)から生じる所得は、所得税法上「事業所得」に分類されます。事業所得の金額はその年中の事業所得に係る総収入金額から必要経費を引いた金額とされています(法27条2項)。そして「必要経費」に入る金額は、①総収入金額に係る売上原価、②総収入金額を得るために直接に要した費用の額、及び③販売費および一般管理費の額です(法37条1項)。
たとえば、洋菓子店が購入したケーキ用のイチゴの購入費用や、美容院が客に販売するために仕入れたシャンプーの購入費用は①に該当するため、必要経費に入ります。
必要経費に入れば、その金額を売上などの総収入金額から引くことができるため、納付すべき所得税の額を減らすことが可能です。
必要経費に入らないもの
では、上記の①から③に該当する費用であればすべて必要経費となるのでしょうか。残念ながらそうではありません。所得税法45条で、必要経費とならない費用が列挙されています。必要経費とならない費用の一例は次のとおりです。
- 家事上の経費
- 家事上の経費に関連する経費で政令で定めるもの
- 所得税及びこれにかかる延滞税など
- 道府県民税・都民税・市町村民税・特別区民税及びこれにかかる延滞金など
所得税や道府県民税が必要経費に算入されないのは「税金は税引前利益に対して課するもの」であるためで、延滞税や延滞金が必要経費に算入されないのは「必要経費算入されると罰としてのダメージが緩和されてしまうため」です。
一方、家事上の経費や家事上の経費に関連する経費のうち政令で定めるものが必要経費とならないのは、その経費が事業所得等の収入金額を得るための費用ではなく、単に個人の生活費であると考えられるためです。
なお、「家事上の経費に関連する経費で政令で定めるもの」については別記事で詳しく解説します。
自宅兼店舗の家賃や光熱費は経費に入りますか?「家事上の経費」とは
「家事上の経費」が具体的に何を指すのかについて、所得税法には規定されていません。この点、東京地方裁判所の裁判例では、家事上の経費の例示として「衣食住費、教養費、養育費、趣味娯楽費等」を挙げていることから(東京地裁平成25年10月17日判決)、「家事上の経費」とは個人事業に関連がない経費、すなわち「生活費」であると考えることができます。
参考 東京地裁判決国税庁 税務訴訟資料家事上の経費が必要経費に入らない理由について、上記の判決では次のように述べています。
ここから考えると、「事業所得等に係る収入を得るために直接必要な費用」であれば必要経費に入り、そうでなければ必要経費には入らないこととなります。
ある費用が「事業所得等に係る収入を得るために直接必要な費用」に該当するか否かは事業の種類や経費の性格などによって左右されるため、「〇〇は経費に入りますか?」と質問に対する答えは常に同じではありません。
お菓子は経費に入りますか?
ここまで紹介したことを踏まえて、いくつかクイズを出します。次の①から③の費用は経費に入るでしょうか?
② 美容室を経営する個人事業主が開店10周年の日に美容室へ来た客へ配布するために購入した有名店のフィナンシェ代
③ 洋菓子店を経営する個人事業主が店で出すフィナンシェの味を改良するために購入した有名店のフィナンシェ代
①は経費に入らない、②と③は経費に入るが答えです。同じ人が購入するフィナンシェ代でも目的が異なれば経費に入るか否かは変わりますし、同じような目的でも購入する人の事業が異なれば経費に入るか否かは変わります。