この記事は、インボイス制度と副業 副業ワーカーはいつまでに何をしたらいいの?(前編)の続きです!
インボイス制度と副業 副業ワーカーはいつまでに何をしたらいいの?(前編)中編では次の事項をQ&A形式で説明します。
- 「インボイス制度」とは何か
- 副業ワーカーがインボイス制度について対応しないと誰が困るか
- 副業ワーカーはインボイス制度対応として何を考えればよいか
- 2022年中にすべきことはあるか
- 2023年中にすべきことはあるか
説明は、引き続きA氏の質問に答えて行く形で進めていきます!
【質問者A氏のプロフィール】
飲食店を運営する会社に勤務する30代。3年前から飲食店ライターの副業を始めた。会社員としての年収は約500万円、副業の収入(20万円)から経費(5万円)を引いた金額は1年あたり約15万円程度。これまで確定申告をしたことはない。
インボイス制度って結局どういうものですか?なんでここまで世間で騒がれているのですか?
インボイス制度は、2023年10月1日に開始する消費税に関する制度です。2023年10月1日以降に行われる取引について、消費税の原則課税を選択している事業者は、「適格請求書」を保存しないとその保存しない分については消費税の仕入税額控除を受けることができなくなる、つまり「支払った消費税額」を差し引くことができなくなります(経過措置については後述します)。
インボイス制度が世間で騒がれているのは、免税事業者が「適格請求書」を発行できない(適格請求書を発行したいのであれば課税事業者になるしかない)ためです。課税事業者になると事務手間も増えますし、これまで納付せずに済んでいた消費税を納付することになるため税負担も増えます。税負担の増は、Webライターやイラストレーターなど比較的経費のかからない業種に顕著に現れるため、主にWeb界隈で騒ぎになっていると思われます。
消費税には、「原則課税制度」と「簡易課税制度」の2種類があります。
「原則課税制度」は①「売上に係る消費税(受け取った消費税)」と②「仕入に係る消費税(支払った消費税)」をそれぞれ集計し、①から②を引くことによって納付すべき消費税額を計算します(①<②の場合は還付を受けることができます)。
一方、「簡易課税制度」は①「売上に係る消費税(受け取った消費税)」のみを集計する点に特徴があります。その上で、①に一定率を乗じた金額を②’「仕入に係る消費税(支払った消費税)」とみなし、①から②’を引くことによって納付すべき消費税額を計算します。なお、「一定率」がマイナスとなることはないことから、①<②’となることはあり得ません。このことから、簡易課税制度を選択する場合は消費税の還付を受けることはできません。
ちなみに、簡易課税制度はそもそも「仕入に係る消費税(支払った消費税)」を集計しない制度であるため、簡易課税制度を選択している事業者は「適格請求書」を保存する必要はありません(請求書の保存は所得税法でも義務付けられているため、請求書自体の保存は必要です)。
私がインボイス制度について何も対応しないと誰が困りますか?私ですか?私以外の誰かですか?
Aさんのクライアントが次のいずれかに該当する場合は誰も困りません。
- すべて簡易課税制度の適用を受けている
- すべて免税事業者である
1.または2.に該当する場合、Aさんはこれまでどおり免税事業者のままで不利益はありませんし、AさんのクライアントはAさんが適格請求書を発行できなくても不利益はありません(1.の理由は「質問5への回答に関する補足」の「ちなみに」以降で説明しています。2.の理由はそもそも免税事業者は仕入税額控除の適用を受けないためです)。
一方、Aさんのクライアントのうちに1人(1社)でも原則課税を選択している人(会社)がいれば、そのクライアントはAさんへ支払った報酬に係る消費税について仕入税額控除を受けることができない(※)ため、そのクライアントが困ります。
(※)2026年9月30日までは仕入税額の80%、2029年9月30日までは仕入税額の50%を控除できる経過措置が設けられていますが、2029年10月1日以降は完全に仕入税額控除を受けることができなくなります
私のクライアントが簡易課税制度の適用を受けているかどうかって、国税庁のサイトか何かで分かりますか?
国税庁のサイトではわかりませんし、他に調べる手段もありません(簡易課税制度の適用を受けているか否かは公開情報ではないです)。簡易課税制度は2年前の課税売上高が5,000万円以下の場合に限って選択できますので、規模の大きなクライアントは原則課税だと思ってよいでしょう。
他に調べる手段は「直接クライアントに聞く」くらいしか思いつきません。クライアントとの関係性によっては聞くこともできるかも知れませんが、普通は聞けない(聞かない)でしょう。
インボイス制度に関して、私は何を考えればよいですか?
まずは2023年10月1日から適格請求書を発行したいか(する必要があるか)を考えるとよいでしょう。考えるにあたっては、同業他社(他者)の状況、クライアントの規模などを考慮に入れて検討するとよいと思われます。
2023年10月1日から適格請求書を発行することを決めたら、次に簡易課税制度の適用を受けるかを考えるとよいでしょう。簡易課税制度の適用を受けるべきか否かは、業種、支払った消費税額、受け取った消費税額、大型設備投資計画の有無などを総合して判断するとよいと思われます。
私が2022年中にすべきことはありますか?また、2022年中にやらないほうが良いことはありますか?
2022年中にすべきことはありません。
2022年中にやらないほうが良いのは、早まって「消費税課税事業者選択届出書」を2022年中に提出することです。
「適格請求書発行事業者の登録申請書」を提出すれば、2023年10月1日から課税事業者となる(つまり、2023年1月1日~2023年9月30日までは免税事業者のままでいることができる)という特例がありますが、「消費税課税事業者選択届出書」を提出してしまうと2023年1月1日から課税事業者になってしまうため、この届出書をうっかり出してしまうと免税事業者でいることのできる期間が短くなってしまいます。
私が2023年中にすべきことはありますか?
2023年10月1日から適格請求書を発行したい場合は、2023年3月31日までに、「適格請求書発行事業者の登録申請書」を提出する必要があります。
参考 [手続名]適格請求書発行事業者の登録申請手続国税庁ホームページまた、2023年10月1日から簡易課税制度の適用を受けたい場合は、2023年12月31日までに「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出する必要があります。
参考 [手続名]消費税簡易課税制度選択届出手続国税庁ホームページ- インボイス制度が騒がれているのは、「適格請求書」を発行するためには課税事業者になる必要があるためです
- 免税事業者が適格請求書を発行しないと原則課税のクライアントは困りますが、簡易課税のクライアントは困りません
- 適格請求書発行事業者になるかどうか、まだ考える猶予はあります。制度開始時である2023年10月1日から適格請求書を発行したい場合は、2023年3月31日までに「適格請求書発行事業者の登録申請書」を税務署へ提出する必要があります
- Aさんが適格請求書発行事業者を選択した場合の影響
- インボイス制度に抜け道・抜け穴はある?
- 筆者はどう対応しようと考えているか